イタリア車何でも辞典

カロッツェリア編

 そもそもカロッツェリアとは戦前、自動車のボディを組み立てる工房としてスタートしている。 現在でも数が少なくなったものの依然大小たくさんのカロッツェリアが存在し、それぞれが開発やデザイン、生産など、得意分野を持っている。 自動車というものは日本では一部例外を除きメーカーが開発・設計・デザイン・生産をするものであるが、イタリアではそれぞれの工程をメーカー自身で行うだけでなく、カロッツェリアがその時々に応じて請け負っている。 そのあたりが自動車の歴史として日本とイタリアの大きな違いであり、ひとつの車を語る場合(古い車になればなるほど)、メーカーだけでなくカロッツェリアの存在も欠かせない理由である。 また日本では考えられないことであるが、伝統的なカロッツェリアでは現在でも1品物の特別注文を受けている。

 

●PININ FARINA (ピニンファリーナ)  :

 1930年、Giovanni Battista Pininfarina (ジョバンニ・バティスタ・ピニンファリーナ) が兄の経営するカロッツェリアであるスタビリメンティ・ファリーナから独立し、トリノに設立。 1930年代からの自動車の近代化に伴い、個々のパーツがばらばらに合わさった形態であった自動車を1つの形態にまとめ上げ、それを機能と美が融合する形態にまで昇華させた、イタリア随一のカロッツェリアである。 天才的人物による直感的デザインというよりは計算されつくした普遍的な美というデザインに特徴がある。 それだけに名車と言われる車の多くはピニンファリーナがデザインしており、代表的な車種を挙げときりがないほどである。 日本ではフェラーリのデザインをしている会社として有名であるが、過去に遡ればイタリアの各メーカーの美しいボディを製作しており、現在も世界各国のメーカーの仕事を請け負っている。 伝統的カロッツェリアであり、また常に最先端をいくカロッツェリアで、イタリア自動車界になくてはならない存在である。

ピニンファリーナが関与した、現在新車で販売しているイタリア車: フェラーリ全車、マセラティクワトロポルテ、アルファロメオGTV、スパイダー
ピニンファリーナに所属した(している)著名人: アルド・ブロヴァローネ、レオナルド・フィオラバンティ、ロレンツォ・ラマチョッティ、エンリコ・フミア・奥山清行

 

●BERTONE (ベルトーネ)  :

 1912年、Giovanni Bertone (ジョバンニ・ベルトーネ)が馬車?の組み立てと修理の工房としてトリノに設立。 伝統あるカロッツェリアの中ではピニンファリーナと同じく、現在成功した会社の1つである。 ベルトーネがデザインした戦後の主要な車、アルファロメオジュリエッタスプリント、同スペチアーレ、ジュリアスプリント、一連のランボルギーニ、ランチアストラトスを振り返ると、ベルトーネという名前と同時に、フランコ・スカリオーネ、ジョルジュエット・ジウジアーロ、マルチェロ・ガンディーニという個人のデザイナーが思い起こされる。 ピニンファリーナのデザインが個人ではなく組織としてとらえられるのに対して、ベルトーネでは常に天才肌のデザイナーが活躍した。 これは、創立者の息子であり、ベルトーネの全盛時代を築いたNuccio Bertone (ヌッチオ・ベルトーネ)が、ディレクターとして彼らを育てたということであろう。 最近イタリア車というところであまり話題に上らないのが残念である。

ベルトーネが関与した、現在新車で販売しているイタリア車: アルファロメオGT、フィアットパンダ(新しい方)
ベルトーネに所属した(している)著名人: フランコ・スカリオーネ、ジョルジュエット・ジウジアーロ、マルチェロ・ガンディーニ

 

●ZAGATO (ザガート)  :

 1919年、Ugo Zagato (ウーゴ・ザガート)がミラノに設立。 そもそもは飛行機用部品の製造からスタートしている。 最近はあまり名前が出てこないザガートであるが、50・60年代のレースが好きな人にとっては切るに切れない名前である。 レースとの結びつきはウーゴ・ザガートの息子であるElio Zagato (エリオ・ザガート)がザガート製作による軽量ボディの車で活躍したことから始まっており、軽量ボディといえばザガートと言われたほどである。 特に、アルファロメオSZ、TZ、ランチアアッピア、フラミニア、フラヴィア、フルヴィアの各スポルトなどが有名である。 近年のアルファロメオSZ・RZ(ES30)やランチアハイエナなどは、特にレースとは関係なくFRPなどの素材による特別なボディを持った少量生産車という位置づけである。 現在のザガートは、他の大手カロッツェリアと同じく自動車以外に多くの工業製品の企画、開発、デザインの仕事をしているが、こと自動車に関してはたまに前述のようなオリジナルなボディを持った特別な車を少量生産している程度である。

ザガートが関与した、現在新車で販売しているイタリア車: なし
ザガートに所属した(している)著名人: エルコーレ・スパーダ、原田則彦

 

●ITALDESIGN (イタルデザイン)  :

 1968年、ベルトーネ、ギアに所属していたGiorgetto Giugiaro (ジョルジエット・ジウジアーロ)がトリノに設立。 日本ではジウジアーロデザインという言い方をよくされるが、彼自身は常に組織の一員である。 カロッツェリアとしては新興であるが、それだけに当初から近代化されており、自動車という点においては現在ではピニンファリーナに負けず劣らずの規模である。 高級スポーツカーも手がけているが、市販車では実用車が多く、華やかな面が目立つピニンファリーナと違った側面で偉大な存在である。 アルファスッド、ランチアデルタ、フィアットパンダ、フィアットウーノ、ランチアテーマなど、またイタリア車以外でもVWゴルフ、いすずピアッツァ、ジェミニなどが有名である。 カロッツェリアが関わった車にはボディのどこかにバッジが付くが、イタルデザインの場合それが付かないため、知らない人には分からないといった通?なところがある。 最近アルファロメオとの結びつきが強い。

イタルデザインが関与した、現在新車で販売しているイタリア車: フィアットプント、アルファロメオ156(マイナーチェンジ版)
イタルデザインに所属した(している)著名人: ジョルジュエット・ジウジアーロ

 

●I.DE.A INSTITUTE (イ.デ.ア.)  :

 1978年、トリノに設立。 ごく最近できた組織であるため、カロッツェリアというよりは自動車デザイン研究所と表現した方が分かりやすいかもしれない。 Franco Mantegazza (フランコ・マンテガッツァ)が長であるが、彼自身は日本ではあまり知られていない。 日本では、エルコーレ・スパーダが所属していた80年代のティーポ2/3プロジェクトで有名である。 当時のフィアットティーポ、テンプラ、ランチアデドラ、アルファロメオ145、155は生産計画からデザインまでI.DE.A.が請け負っている。 90年代初めから中頃までのイタリア車が建築的デザインばかりになっていたのは、当時のフィアット、アルファロメオ、ランチアのほとんどをI.DE.A.がデザインしていたためである。 伝統的カロッツェリアであるザガートなどが、少量生産の特別な車を武器にしている一方で、I.DE.A.は自動車生産の効率化を推進しているわけであるが、エルコーレ・スパーダがそれぞれの組織でその両極端の仕事をしていたというのもおもしろい事実である。 ダイハツの初代ムーブがI.DE.A.デザインだったりする。 移動手段としての車のプロジェクトが多いために、一部のマニアを除いてはイタリア車趣味の話題にはほとんど出てこない。

イデアが関与した、現在新車で販売しているイタリア車: なし
イデアに所属した(している)著名人: フランコ・マンテガッツァ、ウォルター・デ・シルヴァ、エルコーレ・スパーダ、原田則彦

 

これからもまだまだ続きます

 


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